東京高等裁判所 昭和29年(ネ)300号 判決
そうすると被控訴会社から前田和貞に本件手形が裏書譲渡せられた昭和二十六年十二月四日当時、右前田和貞が被控訴会社の取締役であつたことは明らかであり、(仮に控訴人主張の如く同年九月十五日に右前田和貞が退任していたとしても、従前の取締役三名のところ、右退任のときから前示取締役変更の登記あるまでの間に後任取締役の選任せられた事跡の徴すべきもののない本件にあつては、右前田和貞はなお取締役としての権利義務を有していたものと解する外はない)、本件の如く株式会社がその取締役に対し約束手形を裏書譲渡し、右裏書によつて手形債務を負担する行為も、商法第二百六十五条にいう取締役会社間の取引に包含すると解するを相当とすべく、前示本件手形の裏書譲渡につき取締役会の承認を得たことにつき何等の主張立証のない本件にあつては、(前顕前田、塩井の各供述によれば却つてその承認のなかつたことが明らかである)、右裏書による手形行為は無効であつて、被控訴会社としては当該手形の所持人の善意なると悪意なるとにかかわりなく、これに対し右無効を主張して該手形の裏書人としての責任を拒否し得るものと謂うべきである。(手形行為につき商法第二百六十五条と同趣旨の規定たる旧第百七十六条の適用を肯定した大審院第三民事部大正十二年七月十一日言渡判決、民事判例集第二巻四七七頁、その他大正九年十二月二日、大正十三年九月二十四日、大正十五年一月三十日同院言渡各判決参照)。
(斎藤 坂本 小沢)